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糖尿病とがん、2つの治療をされる方へ
2021年2月2日掲載
がんの治療を始める際に糖尿病が見つかったり、がん治療をしている間に糖尿病になったりすることもあります。
ここでは、糖尿病とがん、両方の病気を持つ方が安全に治療を行えるように、療養について知っておきたいことや注意したいことについてのはなしをします。
糖尿病とがんの関係についての総論は、がんをご覧ください。
目次
- 糖尿病がある方ががんといわれたら
- 糖尿病がある方ががん治療をするときに知っておいてほしいこと
- がん治療中に糖尿病が見つかったら
- がん治療に使用する薬で高血糖になりやすい薬
- 困ったときや不安なときは医療関係者に相談しましょう
糖尿病がある方ががんといわれたら
糖尿病がある方は、健康診断や体調不良で医療機関を受診したときにがんの疑いが見つかることがあります。
がんになり、
- 糖尿病があるから、まずは血糖値のコントロールをしてからでないとがんの治療ができないといわれた
- がんといわれたので早く治療したい。糖尿病なんて考えられない
- 今まで血糖値が問題なかったのにがんの治療をしていたら急に血糖値が高くなった
- がんの治療で食事を食べられない。インスリンはどうしたらいいのだろう
といった声を聞きます。
詳しい検査のうえでがんと診断されたとき、「どうして」「なぜ自分が」「どうなっていくのか」と不安になったり、「これから自分はどうしたらいいのか」といった疑問を持ったりすることもあるでしょう。
糖尿病の治療中にがんの疑いが見つかった場合、がん治療を行っている病院を受診して今後の方針を相談していきます。がんの種類や進行具合によって治療法は変わります。片方に重点をおいて治療するべき時期はあるものの、がん、糖尿病、どちらの治療も大切です。がん、糖尿病それぞれを担当する医師から話を聞き、治療方針を確認し、医師、看護師、薬剤師などと相談しながら治療を進めていきましょう。
参考:
国立がん研究センター:がん情報サービス「もしも、がんと言われたら –まず、心がけておきたいこと」(外部リンク)
糖尿病のある方ががん治療をするときに知っておいてほしいこと
がん治療には、手術療法、化学療法、放射線療法などがあり、糖尿病がある方の場合はがん治療と同時に血糖コントロールを行うことが重要となります。ここでは糖尿病のある方が各治療をするときに気をつけたほうがよい点について、治療法ごとにまとめました。 がんの治療をするのにどうして糖尿病のことまで考えなければならないのか疑問に思われるかもしれませんが、血糖値の上昇はからだ全体に影響します。血糖が極端に高い場合は、がんの治療内容を変えたり、血糖が落ち着くまで治療を延期したりする可能性もあります。がんの治療を安全に効果的に行うため、糖尿病の治療についてもしっかりと確認しておきましょう。
(1) 手術を行う場合
手術へ向けた準備
手術を行うときに血糖値が高すぎると、手術後の傷が治りにくく細菌感染しやすくなることがあるため、事前に血糖値を整える治療を行います。それまで食事療法のみだった方も糖尿病の薬が新たに加わることがあり、糖尿病薬を使用している方は種類を変更することがあります。また、がんの治療のため速やかに血糖値を調整することが必要な場合や、検査や手術で食事の摂取が不規則になる場合は、インスリン治療を行うこともあります。インスリン治療のよいところは、手術という身体に大きなストレスがかかるときでも安全に使用できること、投与する量が少量ずつそのつど変えられるため、きめ細やかな調整ができるところです。
一方で、インスリン治療を行うにあたってご本人が積極的に取り組んでいただかなくてはならない点があります。インスリン自己注射の方法(注射剤の使用方法)や血糖自己測定の方法を覚えること、低血糖、体調が悪くて食事がとれないとき(シックデイ)の対応などについて理解していただくことです。その際には糖尿病診療にかかわる医師や看護師、薬剤師などが説明し、治療をサポートします。
また、糖尿病治療をしっかり行うための準備として、糖尿病網膜症のチェックがあります。重度の網膜症があると血糖値が急に低下することで網膜症が悪化することがあります。眼科の受診をしばらくしていない場合には、血糖値をコントロールする前に眼科受診が必要となることがあります。また、腎臓や心臓の合併症も知られていますので、手術に臨む準備としてこれらの慢性合併症の精査を行うこともあります(糖尿病の慢性合併症について知っておきましょう)。
手術前の血糖値のコントロール目標について統一された見解はありませんが、尿ケトン体陰性、空腹時血糖値110~140mg/dL、または食後血糖値160~200mg/dLなどといわれています。
手術で入院するとき
手術で食事がとれない期間、糖分の多く含まれている点滴をします。点滴から糖分が入る場合には、同量の糖分を口から入る場合と比べて血糖値が上がりやすいと言われており、血糖値をコントロールするためにインスリンを皮下や静脈内に投与することもあります。
自宅の療養で気をつけること
手術後に糖尿病の専門的調整が必要となりやすいのは、消化管や膵臓、肝臓などの手術です。消化管の手術の場合は、一度に食べられる量が少なくなるため食事に加えて間食で栄養を補っていくことがあります。また、インスリンを分泌する臓器である膵臓を切除すると、その機能を補うために、それまで注射薬を使用していなかった方でもインスリン治療が必要となることがあります。肝臓を切除すると、食後に肝臓への糖の取り込みが減って食後血糖が高くなることがあります。
食事回数、食事内容によって、血糖値のコントロールが変化することが予測されますので、糖尿病の薬を使用している方は、主治医にインスリンや飲み薬の量や飲み方について確認しておくとよいでしょう。また、体調によっては食事が普段どおりに食べられない場合もあるかもしれません。食事が十分に食べられない状況で、いつもと同じインスリンの量を注射したり、飲み薬を飲んだりすると、低血糖になる可能性がありますので、そのような場合の対応についても主治医に確認しておくとよいでしょう。
参考:
国立がん研究センター:がん情報サービス「手術後の食事(胃、大腸)」(外部リンク)
(2) 薬物療法を行う場合
抗がん剤の副作用と、糖尿病の治療について
抗がん剤を用いた治療を行う場合は、使用する抗がん剤の種類にもよりますが、さまざまな副作用が出ます(がんの療養や治療に伴う症状については参考リンクをご覧ください)。
糖尿病がある方で注意していただきたい副作用は吐き気・嘔吐、発熱、口内炎、味覚変化、便秘、下痢などです。これらの症状のせいで食事がとれないときに、いつもどおりの量のインスリンを注射したり糖尿病の飲み薬を飲んだりすると、低血糖になることがあります。一方で、発熱や吐き気があったり、口内炎がおきたりすると、口当たりのよい食べものしか食べられないこともありますが、それが糖質の多いものであると、血糖値が高くなることもあります。症状を和らげる方法を医師や看護師に確認すると同時に、血糖値のコントロールが不安定にならないように、薬の調整についても確認しておくとよいでしょう。
参考:
国立がん研究センター:がん情報サービス「生活・療養」さまざまな症状への対応(外部リンク)
ステロイドと糖尿病の治療について
薬物療法の治療をしていくうえで、腫瘍の増殖を抑える目的や、吐き気を和らげる目的でステロイドを使うことがあります。一方で、ステロイドは血糖値を上げる副作用があります。そのため、いつもは血糖値が落ち着いていても、ステロイドを使用している間は血糖値が高くなることがあります。インスリンを使用していない方でも、ステロイド使用により血糖値が上がる場合は、そのときだけインスリンを使う方もいます。また、もともとインスリンを使っている方では、ステロイド使用の影響で血糖値が高くなり、ステロイドを使うタイミングに合わせてインスリンの量を増やすこともあります。
このように糖尿病、がんそれぞれの医師と相談しながら、血糖値コントロールとがんの治療を続けていきます。
参考:
国立がん研究センター:がん情報サービス「薬物療法」(外部リンク)
(3) 放射線治療を行う場合
放射線治療を行う場合、全身的な副作用として倦怠感(だるさ)、食欲不振などがあります。また局所的なものとして、放射線の照射部位に皮膚の変化(たとえば皮膚炎、口内炎、腸炎など)などがおこる場合があります。食事がとれないようなときは、「手術を行う場合」や「薬物療法を行う場合」でも触れたように、いつもどおりの糖尿病の薬を使用すると低血糖になる可能性があります。また、高血糖状態で皮膚のトラブルがあると感染がおきる可能性もあるので、血糖値のコントロールは大切です。食事がとれない、皮膚のトラブルがあるといったときには、主治医や看護師に伝えましょう。
参考:
国立がん研究センター:がん情報サービス「放射線治療の実際」4. 副作用と対策(外部リンク)
がん治療中に糖尿病が見つかったら
がんの治療中に糖尿病になった方から、以下のような声を聞くことがあります。
- 使っている薬の関係で血糖値が高くなるといわれた
- がんの治療をしていたら血糖値が高くなって糖尿病だといわれ、インスリン治療が必要になった
- 膵臓にがんが見つかって膵臓をとったから、インスリン治療が必要になった
糖尿病がない方も、がんの精査中にもともとあった糖尿病が見つかったり、がん治療のさまざまな影響で血糖値が上がり糖尿病になったりすることがあります。
血糖値が上がる可能性のあるがんの治療として、例えば、消化管や肝臓の手術があります。手術により食べ物の消化・吸収の流れが変わり、食後の血糖値が上昇しやすくなるからです。また、インスリンを分泌する臓器である膵臓を切除した場合は、十分なインスリンが分泌されずに血糖値が上昇する場合があります。がん治療で使用する薬によっては、副作用により血糖値が高くなって糖尿病と診断されることがあります(具体的ながんの薬物治療については本項目内「がん治療に使用する薬で高血糖になりやすい薬」を参照ください)。
もともと糖尿病がある方も新たに糖尿病が見つかった方も、治療で気をつけるべき点は同じで、必要に応じて血糖値を下げる薬を使います。特にインスリン治療を開始する場合、血糖自己測定やインスリン自己注射の方法、食事がとれないときの対応、血糖値が不安定になったときの対応など、初めて対応しなければならないこともあるでしょう。がん治療の主治医や看護師を通して、糖尿病専門の医師や看護師に相談することもできます。不安がある場合はひとりで抱え込まず、医師や看護師、薬剤師に相談して安心して治療に取り組めるようにしていきましょう。
がん治療に使用する薬で高血糖になりやすい薬
がんの治療薬には、血糖値を高くする作用を持つものや、糖尿病の発症にかかわるものがあります。以下の表に例をあげました。どの抗がん剤をどの病気に使用するかといった薬剤の適応や副作用の報告などは刻々と変わりますので、治療を始める際には、医師・薬剤師が説明する薬の注意事項についてしっかり確認しましょう。すべてを網羅しているわけではありませんのでご注意ください。
使用中の薬についての詳細は、主治医、薬剤師、医療スタッフに確認しましょう。使用中の薬に対する不安、不明な点がある場合であっても自己判断で中止せず、まずはご相談ください。
薬の種類 | 主に使用する疾患 | 薬剤一般名(商品名) |
抗アンドロゲン薬 | 前立腺がん、乳がんなど | リュープロレリン酢酸塩(リュープリン) クロルマジノン酢酸エステル(プロスタール) ビカルタミド(カソデックス) |
ソマトスタチンアナログ | 消化管ホルモン産生腫瘍、消化管神経内分泌腫瘍など | オクトレオチド酢酸塩(サンドスタチン) |
糖質コルチコイド | 血液腫瘍、前立腺がん、乳がんなどの治療や症状緩和 | デキサメタゾン(デカドロン、レナデックス) ベタメタゾン(リンデロン) ヒドロコルチゾン(コートリル、水溶性ハイドロコートン注射液) プレドニゾロン(プレドニン)など |
インターフェロン製剤 | 腎細胞がん、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病など | インターフェロン ガンマ1a(イムノマックス-ɤ) インターフェロンα(スミフェロン) インターフェロンβ(フエロン) ペグインターフェロンα-2b(ペグイントロン) |
mTOR阻害薬 | 腎細胞がん、神経内分泌腫瘍、乳がんなど | エベロリムス(アフィニトール) テムシロリムス(トーリセル) |
チロシンキナーゼ阻害薬 | 血液腫瘍、肺がん、消化管がん、肝細胞がん、腎細胞がんなど | ゲフィチニブ(イレッサ) エルロチニブ塩酸塩(タルセバ) スニチニブリンゴ酸塩(スーテント) ラパチニブトシル酸塩水和物(タイケルブ) パゾパニブ塩酸塩(ヴォトリエント) バンデタニブ(カプレルサ) アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ) アキシチニブ(インライタ) レゴラフェニブ水和物(スチバーガ) カボザンチニブリンゴ酸塩(カボメティクス) レンバチニブメシル酸塩(レンビマ) オシメルチニブメシル酸塩(タグリッソ) ダコミチニブ水和物(ビジンプロ) キザルチニブ塩酸塩(ヴァンフリタ) ギルテリチニブフマル酸塩(ゾスパタ) カプマチニブ塩酸塩水和物(タブレクタ) テポチニブ塩酸塩水和物(テプミトコ) イマチニブメシル酸塩(グリベック) ソラフェニブトシル酸塩(ネクサバール) ダサチニブ水和物(スプリセル) ニロチニブ塩酸塩水和物(タシグナ) クリゾチニブ(ザーコリ) ポナチニブ塩酸塩(アイクルシグ) セリチニブ(ジカディア) ロルラチニブ(ローブレナ) エヌトレクチニブ(ロズリートレク) |
制吐剤 | オランザピン(ジプレキサ) | |
免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体・抗CTLA-4抗体) | 肺がん、腎細胞がん、消化管がん、悪性黒色腫、頭頚部がんなど | イピリムマブ(ヤーボイ) ニボルマブ(オプジーボ) ペムブロリズマブ(キイトルーダ) デュルバルマブ(イミフィンジ) アベルマブ(バベンチオ) アテゾリズマブ(テセントリク) |
免疫チェックポイント阻害薬は、1型糖尿病の発症に関係しているといわれており、1型糖尿病の発症を介して高血糖をおこします。1型糖尿病の中でも劇症1型糖尿病を発症した報告もされていますが、どのような方が発症するのかはまだわかっておらず、研究中です。また、インターフェロン製剤は(1型糖尿病の発症を介さずに)高血糖をおこしやすいだけでなく、1型糖尿病の発症にも関係しているといわれています。
参考:
国立がん研究センター:がん情報サービス「がんの治療に使われる主な薬」(外部リンク)
困ったときや不安なときは医療関係者に相談しましょう
がん治療と糖尿病治療を行っていくうえで、困ったことや不安も出てくるでしょう。本やインターネット、友人・知人から情報を得て困りごとや不安が軽減することもありますが、それらの情報が正しいかを確認し、安心して治療に取り組むことが大切です。情報が正しいかどうかを知る方法には、以下の方法があります。
- 複数の情報源で確認すること
- 医師や看護師、薬剤師、栄養士などの医療関係者に確認すること
ひとりで抱え込まず、医療関係者とともに治療に取り組んでいきましょう。
がんの治療や生活上の注意点などについての情報は、がん情報サービス(外部リンク)をご参照ください。
参考文献
- 日本糖尿病療養指導士認定機構 編著:糖尿病療養指導ガイドブック2021. 日本糖尿病療養指導士認定機構, 2021
- 日本糖尿病学会 編著:糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂, 2020
- 糖尿病と癌に関する委員会:糖尿病と癌に関する委員会報告. 糖尿病 56: 374, 2013
- 岩岡秀明・栗林伸一 編著:ここが知りたい! 糖尿病診療ハンドブックver.3. 中外医学社, 2017