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糖尿病と感染症のはなし
2018年7月17日掲載
糖尿病をお持ちの方はさまざまな感染症にかかりやすく、重症化しやすいといわれています。ここでは、糖尿病と感染症の関係や対処法についてお話しいたします。
目次
糖尿病の人はどうして感染症にかかりやすいの?
糖尿病をお持ちの方は、血糖値が高くなることで白血球や免疫に関わる細胞の機能が低下し(例えば殺菌能の低下など)、病原菌と十分に戦えない状態になることがあります。
また、糖尿病に合併する血流障害や神経障害、人工透析の実施などは感染の重症化に影響すると言われています。
糖尿病の方がかかりやすい感染症とは?
尿路感染症、呼吸器感染症、胆道感染症、皮膚の感染症、歯周病などにかかりやすく、糖尿病でない方と比べて重度の感染症を起こしやすいと言われます。また、免疫が弱いと身体のまれな部位に感染を起こすことがあり、診断が難しくなる場合もあります(悪性外耳道炎、気腫性腎盂腎炎、腎膿瘍、気腫性胆嚢炎、壊死性筋膜炎、鼻脳ムコール症、フルニエ壊疽など)。
以下では、糖尿病の方がかかりやすい感染症についていくつか説明します。
尿路感染症
尿路感染症は頻度が一番多く、膀胱炎、急性腎盂腎炎がその代表です。糖尿病の神経障害をお持ちの方では、“神経因性膀胱”といって排尿がうまくいかず尿が滞る場合があり、尿路感染にかかりやすいと言われます。
膀胱炎は、糖尿病の男性では約5%、女性では約10%にみられ、糖尿病でない方と比べると尿に細菌が混じっている割合が2~5倍であると言われています。
尿路感染症では、頻尿・残尿感・高熱・寒気の症状がみられることがあります。これらの症状がある場合は、早めに受診しましょう。診断には尿検査・血液検査・画像検査を行うことがあります。治療には抗菌薬の飲み薬や注射薬を使用します。
呼吸器感染症
肺の感染症にもかかりやすく、たとえば肺炎、肺膿瘍、肺ノカルジア症などがあります。
糖尿病の方は結核にかかる割合も高いと言われており、結核と診断がついた人の約15%が糖尿病だったと言われています。
診断には画像検査や血液検査、痰の検査を行います。治療は点滴もしくは飲み薬の抗生剤を使用します。熱が下がらない、咳がずっと続くなどいつもと違う症状がある場合は主治医に相談するとよいでしょう。
皮膚の感染症
糖尿病の神経障害により感覚が鈍くなったり、血管障害で血流が滞り、からだの隅々に栄養が行き渡らなくなったりすると、皮膚組織の感染症が増えます。
糖尿病では皮膚が乾燥する場合があり、痒みによる引っ掻き傷から感染することがあります。また、陰部や爪、趾間のカンジダ症や、足白癬(水虫)になりやすいと言われています。
足底や下腿に痛みを伴わない水疱や血疱ができることもあります。これらは糖尿病水疱症といって、破裂して感染してしまうと、糖尿病壊疽に発展しやすくなります。
このように、糖尿病の方は足の感染症にかかりやすいので、フットケアが大切です。
上記のような皮膚の症状がある場合は、主治医に相談するか、感染の場所により皮膚科や婦人科や泌尿器科などに相談するとよいでしょう。
診断は、血液検査や画像検査を行います。また、病原菌を確認するために皮膚をこすったものをプレパラートに塗り顕微鏡で確認することもあります。
治療は、細菌感染に対しては抗菌薬、真菌感染に対しては抗真菌薬を使用します。
歯周病
口のなかの病気にも糖尿病は深く関わります。歯周病は、細菌の感染による歯周組織の慢性的な炎症であり、糖尿病では重症化しやすいと言われます。
歯周病では、歯肉が腫れ出血しやすくなり、進行すると歯茎が下がって、歯が長くなったようにみえます。歯周ポケットが深くなると、血や膿が出てくることもあり、最終的には歯が抜ける場合もあります。歯周病が重症であると血糖値も悪くなり、逆に歯周病治療によって、慢性炎症がよくなると、血糖値はよくなると言われています。詳しくは、歯周病と糖尿病の深い関係をご覧ください。
糖尿病の方が感染症になったとき、なにに注意すればいいの?
事前に気をつけておくこと
風邪や胃腸炎などになって自宅で療養する場合、体調によっては食事も十分に摂取できないときもあるでしょう。糖尿病をお持ちの方が感染で体調が悪くなった状態は“シックディ”といい、お薬の使い方や療養の仕方に工夫が必要です(詳しくはこちらをご覧ください)。事前に、主治医に使用しているお薬をどのように調整するとよいか、相談しておきましょう。
感染症の治療で大切なこと
治療は感染の部位や病原菌ごとに異なり、適切な抗菌薬・抗真菌薬などの治療が必要となります。感染による影響で血糖のコントロールが悪くなると、治癒が遅れたり重症化したりする場合もあります。前述のように、血糖値が高い場合は菌と戦う力が弱まりますので、入院してインスリンを使用し、厳格な血糖管理を行うこともあります。
また、糖尿病をお持ちの方の場合、神経障害の影響で痛みを感じない場合も多く、重症であることに気がつきにくいことがあります。主治医の話をよく聞き、決して侮ることなく治療に取り組みましょう。
感染症を予防するには、どうすればいいの?
適切な血糖コントロールが大切です
感染症を未然に防ぐためには、血糖値をできるだけ正常に保つことが大切です。 これまで見てきたように、糖尿病の合併症である神経障害や血管障害は感染症の素因となることがあるため、感染につながる合併症を防ぐためにもやはり良い血糖値を保つことは重要です。 (血糖コンロトールの目標についてはこちらをご覧ください。)
感染に早く気がつくように、ご自分の体調を気にかけましょう
身体の異常に早く気がついて、感染を早く見つけることが大切です。ご自身の体調で変化がないか定期的に観察を行い、からだの傷や異常がないか確認しましょう。 (足のケアについてはこちらをご覧ください。)
該当する方は、予防接種を受けましょう
糖尿病をお持ちの方は免疫が低下していることがあるため、重症な感染を予防するためにワクチンの接種をしておいた方がよい場合があります。主治医とよく相談しましょう。
- インフルエンザワクチン
糖尿病をお持ちの方は、インフルエンザワクチンの接種が推奨されています。
特に、65歳以上の方、60~64歳で心臓や腎臓、呼吸器などのご病気をお持ちの方、免疫が弱くなるご病気や治療を行なっている方はインフルエンザワクチンの定期予防接種が推奨されています。 - 肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌は高齢者の市中肺炎やインフルエンザ感染後の肺炎の主な起因菌の一つです。血糖コントロールが不良の場合、肺炎球菌による肺炎の治療のため入院が増加するといわれています。肺炎球菌による感染症や肺炎の発症リスクを低下させる肺炎球菌ワクチンの接種が可能です。
65歳以上の方や、60~65歳未満でも心臓・腎臓・呼吸器などのご病気をお持ちの方は肺炎球菌ワクチンが公費で受けられる場合がありますので、主治医と予防接種の必要性についてよく相談しましょう。
参考文献
日本糖尿病療養指導士認定機構 編著:糖尿病療養指導ガイドブック2021. 日本糖尿病療養指導士認定機構, 2021
日本糖尿病学会 編著:糖尿病診療ガイドライン2019. 南江堂, 2019
厚労省 2020年結核登録者情報調査年俸集計結果