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糖尿病の急性合併症のはなし
2015年10月27日掲載2016年6月8日改定版掲載
糖尿病の合併症として、神経障害、網膜症、腎症などの慢性合併症については聞いたことがある方も多いと思います。これらは年の単位でゆっくりと進んでくる、慢性合併症です。
一方で、感染症や脱水、治療の中断や甘いジュースの飲みすぎなどがきっかけとなって、ときに異常な高血糖をきたすことがあります。これは、適切に治療を行わなければ生命をおびやかす急性合併症です。高血糖の急性合併症には、糖尿病ケトアシドーシスと、高浸透圧(こうしんとうあつ)高血糖症候群があります。こうした急性合併症が起きた場合はすぐに治療をする必要があります。また、高血糖を起こさないように予防をすることが大切です。
糖尿病の治療中だけでなく、急性の高血糖がきっかけで初めて糖尿病がわかる方もいます。
ここでは糖尿病の急性合併症のはなしについてお話しします。
目次
糖尿病ケトアシドーシス
血糖値を下げる働きをするインスリンが不足し、十分に血糖値が下がらないことで起こります(インスリン分泌不足)。血糖をエネルギー源として利用できないため、からだはエネルギー不足になってしまいます。そのため、かわりに脂肪がエネルギー源として分解されて、使われてしまう緊急事態です。
血糖値は250mg/dL以上まで上昇することがあり、ひどい場合は意識がなくなる昏睡(こんすい)状態に陥ります。脂肪の分解によってケトン体という物質が血液中に増え、血液が酸性に傾き(アシドーシス)、高度の脱水状態になります。
急にのどが渇き、たくさん水を飲み、尿がたくさん出て、全身がだるくなります。お腹が痛くなり吐き気を伴うこともあり、このような症状が出た場合には注意が必要です。
イ ンスリンの不足が原因ですので、1型糖尿病を発症したとき、1型糖尿病の方がインスリン注射を打たなかった場合など、適切にインスリンが投与されなかった ときに起こります。また、糖尿病以外の病気が原因で全身状態が悪くなった場合には、いつもよりもインスリンがたくさん必要になることがあります。そのよう な場合は、通常通りインスリンを注射していても高血糖になり、糖尿病ケトアシドーシスになることもあります。具合が悪くなったらこまめに血糖値を測定し、 早めに医療機関にかかりましょう。
一方、2型糖尿病の方でも清涼飲料水をたくさん飲みすぎてケトアシドーシスになることがあります。これをソフトドリンクケトーシスと呼びます。甘い飲み物を1日に何Lも飲むと、一時に大量の糖がからだの中へ入ってきてしまい、血糖値を下げる臓器である膵臓は、対応できないことがあります。そうすると、血糖値が急に上昇し、昏睡(こんすい)を起こすことがあります。甘いジュースだけでなく、スポーツドリンクなども多く糖が含まれていることがありますので、注意が必要です。糖尿病ケトアシドーシスの患者さんの内、20%~30%が2型糖尿病であったという報告があり、インスリン注射を行っていない患者さんにも起こりうる急性合併症です。
高浸透圧(こうしんとうあつ)高血糖症候群
糖尿病ケトアシドーシスと並んで異常な高血糖をきたす急性合併症です。インスリン作用の不足は糖尿病ケトアシドーシスほどひどくはありませんが、血糖値は600mg/dL以上となり、著しい高血糖と極度の脱水がしばしば意識障害を引き起こします。
2型糖尿病の患者さんに起こることの多い急性合併症で、インスリン分泌がある程度保たれているため、糖尿病ケトアシドーシスと比べるとあまり脂肪は分解されず、ケトン体の上昇も軽度であることが多いです。
また、高齢者に多く、肺炎や尿路感染症などの感染症、嘔吐・下痢による脱水、手術などのストレス、脳梗塞や心筋梗塞など、糖尿病以外の病気がきっかけとなり起きることがあります。
他に、ステロイド薬や利尿薬などの薬を使用した時や、クッシング症候群やバセドウ病など高血糖の原因となるホルモン異常がきっかけとなることもあります。
治療は、はげしい脱水に対する水分の補充(点滴)が主となります。高い血糖値を下げるためにインスリン注射薬での治療が必要となります。
高血糖の急性合併症の治療と予防
高血糖の急性合併症の治療
糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、いずれの急性合併症も脱水や感染症が、腎臓や肝臓などの臓器に負担をかけます。さらに血栓症(血管の中に血の塊ができて、血液の流れを妨げてしまう病気)を起こし、脳や腸管や足の動脈が詰まってしまう可能性があります。そのような重症の状態では、もはや血糖値のコントロールだけの問題ではなくなります。手を尽くして全身の集中治療を行う必要があります。
高血糖の急性合併症の予防
すでに糖尿病治療を行っている糖尿病患者さんは、恐ろしい急性合併症を起こさないためにも、必ず治療を継続してください。定期的に医療機関を受診し、体調の変化に気づいたら主治医とよく相談するようにしましょう。適切な糖尿病の治療を行っていれば、このような急性合併症はめったに起こりません。日頃の糖尿病の治療が大切であるということは言うまでもありません。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編著:糖尿病診療ガイドライン2019. 南江堂, 2019