トップページ > 一般の方へ > 糖尿病治療のエピソード > 糖尿病治療とうまくつきあっていくために
糖尿病治療とうまくつきあっていくために
2020年10月30日掲載2020年12月4日改定版掲載
糖尿病と長くつきあっていくなかでは、うまくいくときもあれば、うまくいかず悩みを抱えるときもあります。同じ糖尿病という病気がある方でも、人によって難しいと感じることはさまざまです。ここでは、糖尿病がある方の悩みを聞いて、医療スタッフが一緒に解決した事例についてご紹介します。
うまくいかない、悩んでいるといったことがあれば、一人ひとりで抱え込まずに医療スタッフに相談しましょう。
注)こちらで紹介する事例は実例に基づいておりますが、本人が特定できないよう配慮して再構成しています。
目次
- 事例1.糖尿病足病変に気づき、治療に取り組めた2型糖尿病の60代男性のAさん
- 事例2.インスリンポンプを導入して血糖コントロールが安定した1型糖尿病の30代女性のBさん
- 事例3.フットケアを通して介護サービスを利用し、うまく糖尿病と付き合っている2型糖尿病の70代男性のCさん
- 事例4.無自覚性低血糖を起こしていた高齢・一人暮らしの2型糖尿病の80代男性のDさん
- 事例5.インスリンポンプの刺入部を同じところを使い続けたことでインスリンの効き目が悪くなっていた1型糖尿病の50代男性のEさん
- 事例6.認知症が進行し、本人・家族ともにインスリン治療ができなくなってしまった2型糖尿病の70代女性のFさん
事例1.糖尿病足病変に気づき、治療に取り組めた2型糖尿病の60代男性のAさん
Aさんは最近体重が増え、お腹がじゃまでうまく前かがみができなくなりました。その結果、自分の足が見えなくなってしまい、足の爪切りができない状況です。神経障害もあり、足の感覚が鈍いようです。
ある日、Aさんは靴下に血がついていることに気づきました。病院を受診すると、爪が巻爪で皮膚にくいこみ、そこから出血していることがわかりました。足の傷の化膿が進んで感染しており、Aさんは蜂窩織炎(ほうかしきえん)と診断されました。また血糖値も高く、入院治療が必要だと医師から言われました。Aさんは血がついた靴下を見るまで痛みも何もなかったので、医師から言われたことに驚いています。
感染のコントロールと傷の治りをよくするには、血糖値をよくすることも大事ですよ。
Aさんは入院して抗生剤の治療と処置を受け、傷口の状態も改善し退院することができました。退院後も毎日足を洗ったあとに軟膏を塗り続けた結果、退院時よりさらに状態がよくなってきました。外来で看護師と足を観察し、傷に早く気づけるようにしつつ、看護師に爪切りをしてもらっています。自分で足が見えるようダイエットにも励む日々です。
足のトラブルの発見や治療開始が遅れると、感染が広がり、足壊疽や足切断につながる可能性があります。
特に、糖尿病の神経障害がある方は、足の病気に気がつかず、悪化することが多いと言われています。
足の観察をする習慣をつけることはとても大切です。また傷があることに気づいた場合、早期の対応をする必要があります。まずは、フットケアの方法について知りましょう。
事例2.インスリンポンプを導入して血糖コントロールが安定した1型糖尿病の30代女性のBさん
Bさんは5年前に1型糖尿病になりました。今は1歳の子どもの子育て中で、育児休暇をとっています。Bさんはペン型インスリンの頻回注射療法を行っていますが、高血糖・低血糖を繰り返していて、血糖値のコントロールがコントロールがうまくいっているとはいえません。医師に相談したところ、インスリンポンプ(持続皮下インスリン注入療法:CSII)を使ってみることを提案されました。
Bさんはインスリンポンプの手技を習得するために短期間の入院をすることになりました。入院してインスリンポンプの取扱いの練習を何度かしましたが、インスリンを充填する方法や機械の操作の仕方が難しいと感じています。ただ子どものこともあるので、早く退院したい気持ちもあり、焦っています。
Bさんは外来に通いながら自信を持てるまで練習したため、一人でインスリンポンプの操作ができるようになりました。以前より血糖値が安定しており、インスリンポンプ導入の効果を実感しています。
インスリンポンプを利用するには、インスリンを充填する容器(シリンジ)にインスリンを満たす作業や、皮膚に装着するチューブの交換などを何度か練習して覚える必要があります。ご本人や医療施設の状況にもより異なりますが、外来診療を時間をかけてじっくりと行うことでインスリンポンプの使い方を通院で覚えることもできます。それぞれの方の事情を医療スタッフに相談し、治療の導入時期や方法などを決めるとよいでしょう。
事例3.フットケアを通して介護サービスを利用し、うまく糖尿病と付き合っている2型糖尿病の70代男性のCさん
Cさんは一人暮らしで自立した生活を送っており、フットケアとしてシャワーで足を洗ったり、足の爪を切ったりといったセルフケアができていました。しかし膝が曲がらなくなってきたことや、足に手が届きにくくなってきたことに加えて喘息もあるため、自分一人では十分にシャワーや爪切りが行えなくなってきました。本人は自宅での生活を続けることを希望しています。
ケアマネージャーが訪問しご本人・離れて暮らすご家族と相談した結果、訪問ヘルパーが週3回入り、買い物、食事の準備、足浴サービスを導入できることになりました。 その後も月に1回フットケア外来を受診し、自分でもできる足のケアを十分に行って清潔に保ち、足病変などを起こすことなく経過しています。
事例4.無自覚性低血糖を起こしていた高齢・一人暮らしの2型糖尿病の80代男性のDさん
Dさんは一人暮らしで、インスリン注射をずっと行ってきました。食事や飲み薬も自分で管理し、注射の手技も問題なく行えています。
現在のDさんのHbA1c値は6.0%台で経過しています。一見すると問題がなく見えますが、インスリン治療を行っている高齢の方のHbA1c値としては低めです。看護師が低血糖を起こしていないか確認したところ、週に1回程度低血糖様の症状を起こしているようで、すぐにブドウ糖を摂って対応していることがわかりました。
Dさんは「日常生活で困っていることはないからこのまま様子を見てもいいですか?」と言っています。
ご高齢で糖尿病歴も長いから他のタイミングでも無自覚で低血糖を起こしているかもしれない。主治医に状況を報告して血糖値の推移を確認したほうがよいか聞いてみよう。
HbA1c値だけでみると血糖コントロールはよさそうに思えてしまいますが、話をよく聞くと週に1回低血糖を起こしているということがわかりました。医師へ情報共有したところ、24時間血糖値を記録できる持続血糖測定モニタリングを行うことになりました。モニタリングの結果、就寝中にも無自覚で血糖が低いタイミングがあることがわかりました。
現在、インスリンの投与量を減量して低血糖を起こさず血糖コントロールできるように調整しています。
事例5.インスリンポンプの刺入部を同じところを使い続けたことでインスリンの効き目が悪くなっていた1型糖尿病の50代男性のEさん
Eさんは、インスリンポンプを使って血糖コントロールを行っています。本人の生活状況には変化もなく、体重の変動もありませんが、もともとHbA1c値が7%台だったのが9%台に悪化しています。
Eさんの腹部を診察すると臍の左右の皮膚に4cm程度の硬い部分がありました。本人はインスリンポンプのチューブを左右交互に刺して場所を変えていたつもりでしたが、左右の同じ範囲に刺していたことがわかりました。刺す場所を変えることでHbA1c値は改善していきました。
Eさんの場合はインスリンポンプを使っていて硬結ができましたが、ペン型のインスリン注射でも同様に、同じ場所に注射をし続けると硬結ができてしまいます。毎回刺す場所を少しずつ変えることが重要です。詳しくは「血糖値を下げる注射薬」をご覧ください。
事例6.本人・家族ともに認知症が進行し、インスリン治療が難しくなってしまった2型糖尿病の70代女性のFさん
Fさんは夫と2人暮らしです。この頃もの忘れが多くなり、認知症と診断されました。頻回インスリン注射による治療を行っており、これまで毎食前と寝る前のインスリン注射や飲み薬の管理は自分で行っていましたが、最近は自分でできなくなってしまいました。
胃がんを患ったことで体力もなくなってしまい、食事は作ってもらえれば口に運ぶことはできますが、食欲がなく数口しか食べられません。自分ではインスリンを打つことができませんが、インスリン注射を処方どおり行ったとしても食事は食べられたり食べられなかったりとばらつきがあるので、血糖値も不安定です。サポートしてくれる同居人には夫がいますが、夫も認知症があるため身の回りの介助や家事を任せることはできずに困っています。2人だけでの生活は大変ですが、今後も今までのように一緒に自宅で過ごしたいと思っています。
インスリン打たないとごはん食べたらだめなのはわかっているのだけど、いつも行っていたインスリン注射のやり方がどうしてもわからないわ。
2型糖尿病でこれまでインスリンを頻回に注射していましたが、胃がん術後で食欲もなく、食事の量は多くありません。医師に相談したところ、飲み薬の調整を行い、食前のインスリンを中止し、注射の回数を減らすことができました。
ご本人は胃がんと認知症があるため介護申請を行い、ご本人と夫ではインスリン注射の実施が難しいため、訪問看護師に注射や血糖測定を行ってもらうことになりました。食事は夫婦分の宅配食をとり、掃除洗濯にはヘルパーに来てもらうことにしました。また入浴サービスも受けるなどして、これまで通り2人で自宅の生活を続けています。
今回、6名の糖尿病がある方の事例を示ししましたが、一人ひとりで病状や治療状況、生活状況など違います。もし、糖尿病とつきあっていくときに何か困りごとがありましたら、医療スタッフに相談しましょう。