メニューにジャンプ コンテンツにジャンプ

トップページ > 医師・医療スタッフの方へ > EBM論文情報

Efficacy of sitagliptin for the hospital management of general medicine and surgery patients with type 2 diabetes (Sita-Hospital): a multicentre, prospective, open-label, non-inferiority randomised trial.

最終更新日:2016年12月22日

タイトル

入院中の血糖コントロール方法:シタグリプチン+基礎インスリン vs. インスリン強化療法

著者

Pasquel FJ et al.

掲載誌

Lancet Diabetes Endocrinol. 2016 Dec 7(PubMedへリンクします。)

臨床問題

P (患者):一般病床に入院した2型糖尿病患者(全277人・男性60%・平均年齢56.6歳・平均HbA1c 8.7%・平均BMI 35.2kg/m2・平均糖尿病罹患歴10.3年)

I (介入):シタグリプチン一日一回(腎機能に応じて、25mg~100mg使用)に加えてインスリン・グラルギン一日一回皮下注射

C (比較対照): インスリン強化療法(インスリン・グラルギン一日一回皮下注射+各食前超速効インスリン)

O (アウトカム):一日の平均血糖の群間差

研究方法

デザイン:多施設、前向き、オープンラベル、非劣性、ランダム化試験
盲検化:オープンラベルにつき、なし
試験期間: 割り付け後10日間の血糖の推移が検討された。2013年8月23日から2015年7月27日まで症例が組入れられた。

結果

  • 入院時の血糖値、体重、腎機能や年齢に合わせてインスリンが開始され、毎食前の血糖値を100~140mg/dlに保つようにインスリン量が調整された。毎食前と眠前(絶食の場合、6時間ごと)に血糖値が測定された。
  • 表1に見られるように、平均血糖値に差はなく、シタグリプチン+基礎インスリン治療の比劣性が証明された(平均血糖値の群間差18mg/dl未満を非劣性と定義)。
  • そのほか、血糖値が70~140mg/dlであった割合、血糖値が70~180mg/dlであった割合、血糖値が240mg/dlを記録した割合に群間差を認めなかった。治療不応(血糖値が2回連続240mg/dlを記録するか、一日平均血糖値が240mg/dl以上)の症例数にも群間差を認めなかった。
  • 一日総インスリン量はシタグリプチン+基礎インスリン群で有意に少なく、一日の注射回数も同群で少なかった。グラルギン使用量や補正インスリン量には群間差を認めなかった。
  • 血糖値70mg/dl以下が出現したのは、シタグリプチン+基礎インスリン群13名、インスリン強化療法群17名で有意差なく、全血糖測定における低血糖出現率にも群間差は見られなかった。血糖値40mg/dl以下は認められなかった。
  • 在院日数にも群間差は認められなかった(中央値4日)。
  • 感染症、急性呼吸器不全、急性腎障害、再手術、心筋梗塞のそれぞれ、そしてそれらすべてを合算した合併症に群間差は認められなかった。
  • 急性膵炎がインスリン強化療法群で1名、脳卒中が各群で1名ずつ認められた。死亡例はなく、集中治療を要した症例数も群間差が認められなかった。
表. 各指標の群間比較
  インスリン強化療法
(標準偏差 or %)
シタグリプチン+基礎インスリン
(標準偏差 or %)
P値
平均血糖値
(mg/dl)
169.2(48.6) 171(48.6) 0.79
血糖値(mg/dl)が100~140であった割合(%) 23.5(19.9) 23.3(21.8) 0.78
血糖値が240mg/dl以上を記録した割合(%) 16.7(24.1) 14.8(22.1) 0.59
治療不応例 26例(19%) 22例(16%) 0.54
総インスリン量(単位/日) 34.0(20.1) 24.1(16.2) <0.0001
総グラルギン量(単位/日) 16.8(104) 17.9(12.5) 0.94
補正インスリン量*(単位/日) 5.5(4.7) 5.8(5.7) 0.91
総合併症 10(全体の7.2%) 13(全体の9.4%) 0.65
血糖値70mg/dl未満の患者数 17名(全体の12%) 13名(全体の9%) 0.45
血糖値70mg/dl未満の割合 23回/全1900測定(1.2%) 17/全1947測定(1.0%) 0.47
血糖値40mg/dl未満の発生 0 0 -
*測定時に血糖値が140mg/dL以上であると、固定量に加えて追加の超速効インスリンが注射される。

コメント

  • 2型糖尿病の診断がついており、年齢は18~80歳、食事療法、経口血糖降下薬、もしくはインスリン一日体重あたり0.6単位までの患者で、入院時の随時血糖が140~400mg/dlの者が試験対象となった。
  • 除外基準は、入院時の随時血糖が401mg/dl以上、糖尿病ケトアシドーシスで入院、もしくは既往歴あり、1型糖尿病、糖尿病の既往がなく高血糖が認められる例、直近でDPP4阻害薬かGLP-1受容体作動薬を使った症例、イレウス症例、絶食が48時間以上続くと予想される例、集中治療での治療を必要とされる症例、入院理由が急性心筋梗塞または心臓手術、膵炎の既往、胆嚢疾患の併存、ステロイド使用例、腎障害症例、妊娠、と多いが、「一般病床に入院して、シタグリプチン+基礎インスリン」に割り付けられる試験としては適切であろう。
  • インスリンを使う試験であるので、盲検化はできない。
  • シタグリプチン以外のDPP4阻害薬が同様に用いることができるかは不明。
  • HbA1cが10%以上の症例では、インスリン強化療法であっても「治療不応」に陥るオッズが高まる。
  • あくまで食前の血糖測定で評価をしており、食後血糖が群間でどのような推移をたどったのかは不明である。
  • 同グループが行った入院中の血糖コントロールの試験では低血糖の出現率は3~30%(Diabetes Care 2007;30:2181-2186, Diabetes Care 2011;34:256-261, J Clin Endocrinol MEtab 2009;94:564-569)と幅がある。入院前の糖尿病治療、インスリン必要量、入院理由、HbA1cなどが低血糖のおきやすさと関連があると考えられている。
  • 同グループが行った別の研究では、いわゆるスライディング・スケール・インスリン使用群がもっとも血糖コントロールが悪く、基礎インスリン使用の重要性が示されている(Diabetes Care. 2013;36:2169-74)。本試験も基礎インスリンを使うことの重要性をあらため証明しているとも言える。

備考

この試験に先駆けて行われたパイロット試験(Diabetes Care 2014;37:2934-2939)では、入院中の血糖コントロールに、シタグリプチン単剤、シタグリプチン+基礎インスリン、インスリン強化療法の三群比較が行われ、治療開始後の血糖値には群間差が無かった。しかしシタグリプチン単剤群で平均血糖値が高い傾向があり、かつ入院時の血糖値が180mg/dl以上であると、シタグリプチン単剤では血糖降下が十分に得られないことが認められ、本試験の二群比較になった。

このページに関するアンケート

Q1 あなたの年代を教えてください。
Q2 あなたの性別を教えてください。
Q3 あなたと「糖尿病」のかかわりを教えてください。
Q4 このページの情報は分かりやすかったですか?
Q5 このページに対するご意見をお聞かせください。

個人のご病気などについてのご質問やご連絡先などの個人情報に関するご記載はしないでください。こちらにご記載頂いた内容についてはご返答致しません。予めご了承ください。