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Association of insulin dosage with mortality or major adverse cardiovascular events: a retrospective cohort study.
最終更新日:2016年12月16日
タイトル
インスリン使用量と心血管イベント・死亡率の関係
著者
Gamble JM et al.
掲載誌
Lancet Diabetes Endocrinol. 2016 Nov 16.(PubMedへリンクします。)
臨床問題
P (患者):メトホルミン使用中で、インスリンが新規に開始された2型糖尿病患者(全6072人・男性54%・平均年齢60歳・平均HbA1c 8.5%)。
I (介入): コホート研究につき、なし。来院毎のインスリン処方量から一日インスリン使用量が計算され、180日毎の平均インスリン量が計算された。
C (比較対照):1日インスリン使用量25単位未満使用者を比較対照群とし、25単位ごと四群にわけて解析した。
O (アウトカム):全死亡、最初の比致死性心筋梗塞、最初の比致死性脳梗塞・脳出血、心血管死亡。研究方法
デザイン:英国のClinical Practice Research Datalink(CPRD)データベースに登録された、データベースを用いての後ろ向きコホート研究
盲検化:なし
試験期間: 2001年1月1日から2012年12月31日までの期間で登録。平均追跡期間3.1年
結果
- 観察期間の平均インスリン使用単位は一日57.8単位であった。
- 調整前の粗心血管死亡率は、25単位未満 46/1000人・年、25以上50単位未満 39/1000人・年、50以上75単位未満 27/1000人・年、75以上100単位未満 34/1000人・年、100単位以上32/1000人・年。25単位未満を対照群とし、ベースラインの年齢、性別、社会背景、喫煙、HbA1c、慢性腎疾患のステージ、BMI、血圧などの多因子で調整後の心血管死亡のハザード比(HR)(95%信頼間隔)は、25以上50単位未満 1.41 (1.12-1.78)、50以上75単位未満 1.37 (1.04-1.80)、75以上100単位未満 1.85 (1.35-2.53)、100単位以上 2.16 (1.58-2.93)となった。
- 全死亡率をベースラインの共変量のみで補正したHRには、インスリン使用量が増えるとHRも増える関係が見られる(表1)。しかしながら、時間とともに変動する共変量(血糖コントロール、体重、低血糖頻度、心血管イベント)を含めて調整すると、HRが有意な上昇を見せるのはインスリン75単位以上の2群のみである。さらに周辺構造モデルを用いて補正すると、インスリン使用量とHR上昇の有意な関係は認められなくなった。
表1:さまざまな調整による、インスリン使用量と全死亡率ハザード比の関係
ベースラインの共変量のみで補正したHR(95%信頼区間) | ベースラインと時間変動する共変量で補正したHR(95%信頼区間) | 周辺構造モデルを用いて補正したHR(95%信頼区間) | |
25以上50単位/日未満 | 1.33(1.06-1.66) | 1.24(0.99-1.56) | 1.40(0.99-1.99) |
50以上75単位/日未満 | 1.28(0.98-1.66) | 1.20(0.92-1.57) | 1.12(0.75-1.68) |
75以上100単位/日未満 | 1.70(1.26-2.29) | 1.65(1.22-2.25) | 1.49(0.93-2.38) |
100単位以上 | 1.95(1.45-2.62) | 1.82(1.34-2.46) | 1.60(0.99-2.60) |
コメント
- CPRDデータベースは英国の一般医の診療情報を集めているデータベース。
- メトホルミンを使用の上、血糖コントロール不良の場合にインスリンを追加するのは、英国で用いられる糖尿病治療ガイドラインでも推奨される治療である。
- しかしながら他の治療薬で開始された患者は解析対象から除外されている。実際、SU薬で治療開始の患者(約13%)が除外されている。
- 多数の共変量調整と、周辺構造モデルを用いることで可能な限りの交絡因子を排除しているが、観測されていない因子が交絡因子となっている可能性は残される。
- インスリンの処方量を解析に用いているが、実際のインスリン注射量はおそらくそれよりは少ないと考えられる。
- 一般医のデータベースであるので、専門医にかかっている症例は組入れられていない。
- インスリンの一日使用量のみ解析対象で、基礎インスリンか食前インスリンのどちらかが心血管死亡に寄与するのかは解析できない。同様にどのタイプのインスリンが使われているのかも解析されていない。
備考
周辺構造モデル(Marginal structural model)は、傾向スコア(Propensity score)の逆数を用いて重み付けし、調整を行う方法(Inverse probability of treatment weighting)。このような観察研究では、例えば血糖コントロールの良否は、インスリンの使用量によっても変わるし、今後のインスリンの使用量にも影響する。インスリンを使用している症例は、続けてインスリンを使用する可能性が高いので、その分重み付けをして解析を行うと、インスリン量と死亡率の間の交絡因子(ただし観測されて、解析に用いられているもの)を理論上排除できるとする解析法である。